Tidings: Marie Lepetit / Shun Kumagai
OF earthly civilization, what shall we say ?
「この地上の文明について、何を語ればいいのだろうか?」
マリー・ルプティは詩人チェスワフ・ミウォシュが『Tidings』(便り)で投げかけたこの問いを、自身の作品の中で幾度となく取り上げてきました。彼女のノートには、天体図や幾何学図形、ミウォシュの言葉が何度も書き込まれては消され、ページを追うごとに変化を遂げていきます。これらのデッサンは、現れては消え、変容していくこの過程を繊細に表現しながら、痕跡を残そうとする人間の営みを想起させます。重ねられた色彩の層に無数の線と点で構成された絵画のシリーズ『Tailor of Time』には、色と幾何学模様が織りなす宇宙のような壮大な空間が広がります。そこには、線を引く、点を打つといった反復する作業から生まれる「構造」と、偶然が生み出す「混沌」が美しく混在しています。
古代ガラスのような独特の質感と色彩を備えた熊谷峻のガラス作品は、文明の記憶の結晶のように光と時間を内包しています。鋳造技法を用いて制作されるこれらの作品は、蝋で原型を作る工程から始まり、石膏の鋳型にガラスを流し込んだ後、時間をかけてゆっくりと焼成されます。
その過程における窯内の温度変化や、土や金属といった素材の融合がガラスを変容させ、複雑で予想外の表情をもたらします。長い工程を経て、ついに石膏の型を割って取り出す瞬間は、まるでタイムカプセルを掘り起こすときのように胸が踊る瞬間だと作家は語ります。
ルプティが創造する広大な宇宙を背景に、熊谷のガラス作品は小さな惑星のように配置され、呼応し合う空間を構成します。響き合う彼らの作品は、私たちが生きる世界やその文明を見つめ直すための新たな視点を与えてくれるのではないでしょうか。
本展「Tidings」は2024年にパリで開催された「Tailor of Time」展を再解釈し、新たに制作された作品とあわせて展示いたします。また、本展の為にマリー・ルプティのノートを再現したアートブックを制作しました。展示作品とともに、ぜひこちらもお手に取ってお楽しみください。
